第8集

小龍としての晩餐:一章の小說

「一章の小說といふのはな、原稿用紙一枚に詰込めるのだ」

「ほう、では領主樣は、總ての小說は冗長だとおつしやいますか?」

「さうは言つとらんが、長くてな」

「要するに冗長なのでせう」

「興味の無い事が多いのだ」

「ほう」

「なぜアルゼンとミランの進捗を率直に|認《したた》めぬのか? 私には理解不能だ」

「それは、アルゼン樣とミラン樣の大偉業を大偉業せしめるためには、その〈背景〉が必要だからです」

「はん。お前は、“|解說《ことば》”なき|小說《かたり》こそ眞の文學だ、と拔かしてをつたのにな、鹿狩り?」

「いやいや……では今まさにこの記錄をお讀みの世繼ぎ樣が我々を解釋するにはどうしたらよいのでせう? ——彼は我々の姿形、この【世界】の事について、何も知りません!」

「何を言つてる? 世界など、今ここを見渡してみれば、よい事ではないか……」

次:聽く耳

前:小節・二

公開:2022年5月8日

初出:2018年7月9日

著:絲

適用:CC0[著作權抛棄]

📚 gemini://sinumade.pollux.casa/sinumade/2018/8/271.gmi