第2集

和らげ

 仕事への痛みを、「ああ、あの人も苦しみながら働いてゐるんだ」といふ事でしか和らげる事が出來ない。それすらも出來ない。何も出來ない。何も逃げられない……逃げられてゐない。現實逃避ですらない。何も無い。私のやる事は總て無駄だ。無駄だ……。逃げるべき何が在るだらう? 考へてもみればそれ程「厭」な事でも苦しみでもない氣がするが、私は時々逃出したくなる。時々でもなく、全部。全部。いつも。私は義務が嫌ひだ。何もかも嫌ひだ……「好き」といふ煌めきはいつか去つて……それですら嫌氣の差す、落著きの無いものになる。この世に固定的なものなど何も無いのか。私は書いてゐる。下らない事を。又日記を開く……今日あつた事を、書くために……あの人にお伺ひを立てたい、と書くだらう、自分でも厭な事、厭な奴だと思ひながらも。

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公開:2022年5月8日

初出:2018年2月13日

著:絲

適用:CC0[著作權抛棄]

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