第2集

土踏まず

 朝の九時から五時まで

 夜の九時から五時まで

 車には澁滯すると疎まれ

 |住民《ひと》にはうるさいと|通報《しら》され

 |步行者《わたし》にはあはれだと思はれ

 制服姿の皆は 砂利と騷音と寒さに耐へながら

 ただ仕事をしてゐる ——それが仕事だから

 たまにコンビニによつて 愚癡をこぼしながら

 |同僚《みんな》の分の 煙草を買つていく

 二週間が過ぎて

 夜が明けると

 眞つ黑でつややかな

 なめらかなアスファルトが出現する

 車たちは|普段《いつも》よりちよつと上機嫌になつて

 その上を滑つてゐる

 いつもが戾り

 鮮明な白線が淸々しい

「お疲れ樣です」

 行爲は地になつて

 でもとてもありがたい

 土踏まずには 生きられぬから

次:いつの間にか

前:お父さんがいつぱい

公開:2022年5月8日

初出:2018年2月27日

著:絲

適用:CC0[著作權抛棄]

📚 gemini://sinumade.pollux.casa/sinumade/2018/2/147.gmi