第13集

用無しの傘

 使はれなくなつたのはいつか

 噓吐きで

 汚くて

 用を足せなくなり

 骨が折れた

 雨に濡れたあなたを守れなくなつた

 私は用無しの傘

 かすかに觸れるあなたの|手の甲《て》が

 隣の別の傘を選び出す

 私は每朝|彼女《あなた》を見てゐる

 使はなくなつた事さへ忘れて

 あなたは私を

 ずつと立てかけてゐる

 意味無く棒立ち

 何のために存在してゐるのか

 自我のある私は

 自分の死さへ分らず

 用ゐられなくなつた私は

 ここにはゐるが

 死んでゐる

 私のゐる意味は無く

 彼女にとつてさへ無い

 忘れられてゐる

 無い事と同じ事

 ずつと私は立つてゐる

 無用の傘

 捨てられるその日まで

 私は無いのと同じ

 無用な背景

 ただ 描かれるためだけの背景

次:心殘り

前:君の春芽

公開:2022年5月8日

初出:2018年12月25日

著:絲

適用:CC0[著作權抛棄]

📚 gemini://sinumade.pollux.casa/sinumade/2018/13/439.gmi