第12集

忘れ物

 最近心の物忘れが激しい、

 大切な事を忘れる、

 忘れたくない事を忘れる、

 まづ品を忘れ、

 義を忘れ、

 次に言葉を失つて、

 自分そのものも失ふ。

 まともに物が書けない。

 君に屆く言葉も無い。

 私に響く言葉も無い。

 ただ品の無い亡者どもが

 腦を巢食つて、

 私の言葉は散り散りになる、

 厭きれたばかりの言葉になる。

 何も無い言葉になる、

 意味の無い|言葉《おと》になる。

 私が表現したかつたものは、何。

 私がいらついてゐたものは、何。

 今から言葉を攝取します。

 忘れた品が戾つてくるか、

 忘れた義が戾つてくるか、

 失つた|言葉《ことり》が戾つてくるかは、

 分らず。

 當ても無いのに書續ける事、

 それが、私です。

次:誠實な人間の探し方

前:當り前

公開:2022年5月8日

初出:2018年11月12日

著:絲

適用:CC0[著作權抛棄]

📚 gemini://sinumade.pollux.casa/sinumade/2018/12/375.gmi