第1集

隣人が死んだ

 今日は、隣の隣の隣の人が死んだ

 昨年は、隣の隣の人が死んだ

 どんどん死んでく?

 每日死んでく?

 御悔み、申上げます、|香奠《かうでん》、持つてきマシタ

 何となく慣れないその言葉

 チンと鳴らし線香上げてもいいかわからない

 ああ恥づかしいナア

 でも「わざわざ、すいません」なんてイヘの人が言つてくれるのはありがたい氣がして

 こつちも「(常識が無くて)スンマセン」、なんて應へる

 出てきた道と歸つた道

 紫の布を傍に置くと

 ああ、昔ながらのウチつていいなあ、疊があつて、|木造《きづくり》で。ああ、あのばあさん、寫眞では元氣さうだつたのになあ(元氣でない寫眞を飾るわけもなからう)

 なんて思つてる、今日の午後

 あの人たちも、夕方には黑い服著て、ネクタイ締めて、「故人のためにお集まりくださりありがたうございます」なんて言つてるところを見ると、……黑服なんて陰氣クサイなんて思つてたけど、普段は普通の人なんだなあと、夢想する、夕時の臺所であつた

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公開:2022年5月8日

初出:2018年1月30日

著:絲

適用:CC0[著作權抛棄]

📚 gemini://sinumade.pollux.casa/sinumade/2018/1/35.gmi