小說(2019年作)

肌を合はせると

公開:2022年5月8日

初版:2019年6月10日

著:絲

適用:CC0[著作權抛棄]

附錄:『肌を合はせると』後書

注意事項

本文

 幼馴染に抱かれるのつてどんなだらうつて想像した。暗い廢校で。吐息の交はる中、濕つた肌を押附けて。

 でも實際は、知らない男に抱かれたり抱いたりしてゐる。あの頃は每日逢つてゐたのに。勉强が難しくなるにつれ離れていつて、大學は遠い地にしかなかつた。歸省してきたあなたはいつも電話を氣にしてゐて、視界には指輪の光がちらついた。變に大人伸びた眞實が——もう、私の知つてゐるあなたではなくなつてゐたんだね。

 そして、あなたの知つてゐる私でもない。だから、私はあなたを誘つた。

 ……オーケー?

 忘れた頃に顏を合せた親戚の子のやうに、あなたの肉感は氣持の惡いものだつた。

 私はまだ、蟲が鈴みたいにりんりんと鳴く、田んぼと|芒《すすき》とチェーン店ばかりある、この田舍にゐるよ。

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